たった今、凄いのが届きました!!

まずは読んでみてください。参加してくださった方達、恒遠くん本当に有り難う。大感謝です!!


大槻洋という人を本人の意見はそっちのけにしてイメージのみで語らせていただくとすれば、彼こそが90年代に巻き起こった「70’sパンク復興ムーブメント」の立役者であり中心人物である。だがしかしREGISTRATORSの中後期からBRIGHTLINERを経て現在のSMALLSPEAKERにいたるまでの彼の道のりを追っていくと、もはや70’sだとかパンクうんぬんでは片付けられない独特の音楽世界、そして録音物を作り続けている。
そこで今回、そんなSMALLSPEAKERの1stアルバムを様々な視点から考察してみることにした。真の意味でラディカル、芯の意味でモダンな彼にしか作りえないロックンロールをより多くの方に聴いていただくための対談である。
まずは90年代にギターポップシューゲイザーなどがブームとなった時代に海外の流れと同時進行で活動し、福岡から世界に飛び出す勢いで活躍していたバンド、Capsule Giantsのリーダーであり現在はNEON GROUPとして東京で活動するREO YOKOMIZO氏。それから、パンク、パワーポップ、ガレージパンクのなかでも厳選しまくりこだわりまくった良質な作品のみをリリースしてきたレーベル TAREGET EARTHを主宰する中上マサオ氏(最近の海外のロックもきっちりフォローしています)。そしてそして大槻洋を古くから知る人物であり、ある時はともに歩み、ともに時代を作ってきた男、我らがロックンロール・プロフェッサー&パンクマスター FIRESTARTER のFIFI氏。
SMALLSPEAKERの1stアルバム『DESKTOP ROCK’N’ROLL』を聴いたばかりの3人は本作をどのようにとらえただろうか。

TEXT  恒遠聖文


上等なアウトサイダーミュージック

●いきなりこんなこと言うのもなんですが、“問題作”が出ましたね。
FIFI「中上もブログにそう書いてたけど、まぁ……問題作だよね(笑)」
●まず、みなさんが最初に聴いた時の印象を教えてください。
REO「一番最初は音にびっくりしましたね」
中上「ドラムのパターンがびっくりするよね」
FIFI「テーブルを手で叩いてるようにしか聴こえないものがあったり」
●打ち込みにもいろいろありますが、これまであまり聴いたことのないような音ですよね!
中上「もっといわゆる音響的なものをやるのかな? っていう想像もあったんだけど、そうでもないし」
REO「エレクトロっぽい要素もあるにはありますけど違いますよね。だからあの音に慣れるまでにちょっと時間がかかったというか、でも2回3回と聴いた頃には凄く好きになりましたね。それからは聴けば聴くほどよくなっています」
FIFI「俺もまったく同じで、最初は音が独特すぎてびっくりしてるうちに終わってたけど、2回目3回目からようやく曲が聴こえてきて、さすがだなって。例えば曲で言うと『A GIRL FROM NOFANTASY 』、こんなの大槻じゃないと作れねえなって思うよね」
●では、みなさん共通して最初は音にびっくりしたわけですね。
REO「ええ。でも、すっと通り過ぎちゃうような引っかかりがない音楽なんてつまらないですよ。きっと引っかからないように作ってるんでしょうね。でも、これは引っかかりがあったんです。そして、その引っかかりを通り越したら真の良さがみえてきて、それから好きになりましたね。最初は戸惑ったベースとドラムが常に一定っていうのも今はすごくいいなと思います」
●どんどん気持ちよくなってきますよね。
REO「バンドのドラマーってこんな風には叩いてくれないですからね。絶対もっといろいろやりたがりますから。一人になっていろいろ削ぎ落としていった結果がこれなんでしょうね」
●〇〇っぽいですね、とか言ってみたいんですけど、あまり言いようがないですね。
REO「聴いてると、例えばJESUS & MARY CHAINとかが浮かんでみたりもするけど、 すぐに消えていきますね。全然違うんですよ。これはやっぱり大槻さんの世界なんです」
中上「ギターの弾き方ひとつとってもその辺のバンドと違うんだよね」
REO「90年代の打ち込みのやつとかも当時はけっこう聴いてましたけど、よくいたバンドの音とはまったく違いますね。すごい独特ですよ」
●レコードにあわせてギター弾いてるのをすぐ傍で聴いてるような、そんな近い距離感の音像もあったりしますし。とにかく独特ですね。
FIFI「ただね、こういう音は想像した通りのものではあったね。というのは、大槻はこういう音になる筋道をこれまで通ってきてると思うから」
●たしかにREGISTRATORS〜BRIGHTLINERの作品を順番に聴いてると、音にしろ方向性にしろひとつの流れにはなってますね。
中上「そういう意味では突然変わったって感じではないよね。『90年代にはこんな音楽いっぱいあったでしょ? 大槻さんがやってるからいいってみんな言ってるだけでしょ?』って言う人もいるだろうけど、大槻だからいい……そんなの当たり前だよ(キッパリ)。たしかに90年代のロック……STROKESなんかの要素も嗅ぎとることはできるかもしれないけど、大槻洋じゃないと出来ない音楽をやってる」
FIFI「“なにをやってる”っていうより“誰がやってるか”が重要で、このアルバムにはそこも入ってるから、もはや音楽だけじゃないんだよね」
中上「曲とか音楽自身よければ、人なんか関係ないっていうのもそれはそれであるとして、“大槻だから”っていうのは当然あるよ」
FIFI「それは当然あると思うよ。大槻がやってるからこそ光り出す音楽。大槻がやることをずーーっとフォローしてる人たちがいて、その人たちのための音楽っていう面もあるし。だからもしかしたらある意味一般的じゃないかもしれない。もちろんいろんな人が聴いた方がいいに決まってるけど、やっぱりずっと彼をフォローしてる人たちに向けて作ってる音楽だと思う」
●その人たちのもとに届いたところで完成するというか……
FIFI「だからその人たちにとってはまったく違和感はないと思うよ。筋道とおってここに辿り着いてるし。そう考えるとこの音は正しいんだよ。大槻自身もこの音がイビツなものだってわかってやってるわけだし」
中上「僕らはそういうイビツや揺らぎのあるものが好きだしね。SMALLSPEAKERは ギターの録り音ひとつにしても、プロみたいな人にしてみたらありえない音かもしれないけど」
●ヒスノイズみたいなのが入ってたりしますしね。それが気持ちいいんですけど。マニュアル人間には絶対に作れないものです。
中上「今のJ-POPって音程まで機械で直しちゃってるから歌もきれいに聴こえるけど、それって魂がないよね。つるっとしてて。今の子たちってそれを聴いて育っちゃってるから、どんどんつまんなくなっていってると思うな」
●イビツなものは出てきづらくなりますよね。
FIFI「言葉は悪いけど、このイビツさは一種のアウトサイダーミュージックだよ」
●誤解を恐れずに言えばそうかもしれないです(笑)。
FIFI「ただし上等なね。そういうものって理解も批評も必要するものじゃないから」
REO「僕は“その人”が出てる音楽が好きなんですよ。それは決して『ロッキン・ オン・ジャパン』で語られてるようなものじゃなくて。そういった意味で大槻さんはアウトサイダーですからね(笑)。彼からこれが生まれてくるってのは必然的な感じはします。あと、打ち込みでやってても人力ロック感を感じますね。すごく人間くさいとこがありますし」



もう3rdアルバムの話をしてるからね

●まぁ、いろいろ驚いてはみましたが、あの大槻さんがその辺の若い子が聴いてるようなバッキバキの音の打ち込みをやるとも思ってはいませんでしたけどね。
中上「でも、おもしろいのは本人はそういった若い子も普通に気に入るような音楽のつもりで作ってる節があるんだよね」
●あぁ、そうですね(笑)。
FIFI「そこが真のアウトサイダーだね」
中上「本人はこれヒットしちゃうかもしんないよって思って作ってただろうしね」
●それは実に正しいですし、そうあってほしいですね。
REO「若い女子が家で聴いててもおかしくないですからね」
●そうなればいいですねぇ。REGISTRATORSを順をおって聴いていくと、あの時代にあんな音を作ってるって怨念以外のなにものでもないと思うんですよ。メロコ ア全盛期にRAWなパンクをやったり、重低音が当たり前の時代にそれと真逆の中域にこだわった録音をしたり。一筋縄ではいかないバンドだなと。
中上「今はそれすらも楽しんでる感があるよね。REGISTRATORSってバンドは嫌われてなんぼみたいなのを自分らでやってるってとこがあったけど。今の大槻君はブログもああやって毎日書いてて、腹をくくった感じがあってさ。あと、今回は作っていく過程をブログに書いててそれをリアルタイムで楽しめたとこもよかったね」
●ああやって制作過程を記述していくのは、すごく今の時代ならではで楽しかったですね。
中上「今回、僕も発売にあたって手伝うこともあったんだけど、音は最終的にプリ・マスタリングするまで聴かせてくれなかったから、そういう意味でおもしろくはありましたね。今回のリリースまでのスピード感はすごくいいなと思いますよ」
●BRIGHTLINERが解散したのっていつでしたっけ?  
中上「去年の秋ぐらいじゃなかったかな? それから1人でやるって宣言してから名前つけて……早かったね」
FIFI「それがもうこうやって出てるわけだからすごいよね。しかも2ndにまだ着手してないのに、もう3rdの話してるからね」
●ははははは! すごいな!
FIFI「Jandekっていう30年近くの間に宅録で50枚くらいのアルバムをつくった人がいるんだけどさ、それを彷彿させるスピードだよね(笑)」
●溢れ出る出てくるんでしょうね。DANIEL JOHNSTONみたいに。
中上「FRANK ZAPPAとかも毎月のように出してたよね」
●もう、このままそのくらいのスピード感でいってほしいですね!
中上「それをリアルタイムで追っていくおもしろさってあるからね。たぶん2ndはまた全然違うものになると思うから、そこでまたびっくりするためにはこれを聴いておかないとってのはある」
REO「だから今買っておかなきゃなって思いますね。もう3rdのことを考えてるんなら、これはもう既にちょっと前の大槻さんなわけですからね」
●確かにそうですね。このスピードを追っかけて行った方が楽しいです。 SMALLSPEAKERって名前を思いついたのも早かったですよね。
REO「スモールスピーカーって聞いても音のイメージが沸いてこないですよね」
●BRIGHTLINERもそうでした。いい意味で無味無臭というか。
FIFI「同じ人がつけたんだなっていうのはわかるね(笑)」
●ですね(笑)。それにしてもREGISTRATORSをやってる頃は、まさか後にこんなことをやってるとは思ってもみませんでしたね。
中上「REGISTRATORSって日本と海外で捉われ方が違うんですよ」
●あ、そうなんですか?
中上「海外だと、ガレージパンクみたいに思われてるんですよ。でも、日本だとぜんぜん違うでしょ?」
●まぁ、70’sパンクみたいな括りですよね。
中上「ただ、70’sのパンクとはまた違うんだよね」
FIFI「ぜんぜん違うね」
中上「その当時はやっぱり70’sパンクの代表みたいな感じだったけど、でも今ふり返ってみてみるとREGISTRATORSってバンドは70’sのパンクがもってた雰囲気とか気持ちみたいなのを90年代っていう時代にあわせてやってたバンドだったんだなって思うんだよね」
●あぁ!
中上「そこが今ふりかえるとおもしろい。BRIGHTLINERにしてもUKのインディーロックみたいな評価があったけど、それもちょっと違うんだよね。やっぱり、その時代その時代にあってなきゃ、俺は嫌なんですよ。例えばTEENGENERATEにしたって90年代にしか存在しえなかったものだと思うし。ある時代のものが好きでそれを研究してリバイバル的にやる人もいるでしょ。それはそれでおもしろいけど、そこに入れ込んだりはしないよね。だから今ニューウェーヴっぽいことをやってるような人にはがっかりしちゃう。そういう意味でもSMALLSPEAKERは今の音楽をやってると思う」
●そうですね、単に今流行のというのではなく、“今の”音楽ですね。そういうアンテナは凄く尖った人だと思います。
中上「以前、それまで70’sパンクやパワーポップを聴いてるような界隈の中でいきなり NEW ORDERが流行ったっていうのも完全に大槻くんの影響だと思うけど、そういうトレンドを作った人でもあるよね」
●STROKESがそういう層に聴かれるようになったのもそうでしたね。
中上「あと、これまであんまりロックンロールって言葉を使う人じゃなかったのに、『なんでDESKTOP ROCK’N’ROLLなんだろ?』って思ってたけど、これを聴いて『あぁ、こういうのが彼のロックンロールなんだな』って、何度も聴いていくと腑におちる」
FIFI「それにしてもDESKTOP ROCK’N’ROLLなんてよく考えたなって」
REO「SMALLSPEAKERで…… DESKTOP ROCK’N’ROLL……」
●よくよく意味を考えると寂しい感じがしますね(笑)。
FIFI「おそろしく切ないよね(笑)」
●バンドを解散して1人になった寂しさと自由さが同居したアルバムだと思います。
FIFI「これを一人でパソコンの前で録音してるかと思うと切なくなるな。そもそも切ない曲が多いし、ジーンとくるんだよね。基本的にREGISTRATORSの頃から切なさは持ってたけど」
●ジャケットのイメージもありますけど、宇宙船に一人取り残されたみたいなかんじがありますよね。
REO「最初は解放された喜びからはじまるんだけど、それがだんだん切なくなるみたいな」
FIFI「いろいろと深読みをさせる音楽ではあるね。それもあわせて完成みたいな」
REO「いろいろ勝手な推測してますけど、ぜんぜん違うかもしれないですけどね (笑)」
●支持者のもとに届いて完成するのかもしれないなんて言ってるとすごく狭い話に聞こえるかもしれないけど、そういうピンポイントに伝わらないものは広い層にも伝わらないと思うんですよ。
FIFI「例えばライヴで新曲やカヴァーやる時だってそうだよね。ある数人が喜ぶためだけのためにやったりするし」
中上「レコード店でそれはあるね。ある特定の何人かの人たちが喜ぶであろうものを仕入れたり」
●そうですね。ものを書く時もありますね。
FIFI「音楽でも文章でも不特定多数にやってるつもりではやれないなって思う」
●だからこのアルバムを突き付けられた我々がいろいろと解釈して広げていければいいなと勝手に思ってます。……とかなんとか本人の意図はまるで無視して好き勝手に喋ってきましたけど、「最初はびっくりした」「とまどった」などの言葉にビビらず、より多くの人に聴いてほしいです。念のために言っておくと決してアヴァンギャルドなものではないですし、ものすごくいい曲ばかりですからね。
FIFI「今や大槻がやってるからってのを抜きにしても聴きたくなるもんね」
中上「みんな奇をてらわず普遍的なことをやろうとしてるんだけど、今の時代ではそれが逆にアヴァンギャルドになっちゃったかもね。わざと変ちくりんなことをやってる人のほうがそれなりにメディアに取り上げられたり、ライヴに人が入ってたりする」
●あぁ、そういう現状ですよね。
REO「大槻さんには奇をてらうようなずうずうしさがないですね。妙なアート嗜好もなくて素で音楽というか」
●そうですね、ギミックも取り巻くサブカルチャーもない、一人の男が一人でつくった音楽だけの世界にぜひ、ふれてみてください。